日記


飽き症がゆえ、日記というものが続いた試しがない。
そのくせ、ごくたまに、執筆欲が湧いてくる。
今回のそれも、おそらく今日限りなので、昔やってたブログを引っ張りだして、ちょっと書き殴ってみようと思う。
関係ないかもしれないけれど、そういえば大学ノートを綺麗に使い切ったことが、あまりない。


新しい職場に移って、明日でちょうど3か月だ。
まさか社会人2年目で転職するなんて思ってなかった。けれど、転職をしたこと自体には、そこまで驚いているわけではなかった。
編集という仕事を選んで以来、周囲の編集者を見ていても、いつかはそんな日が来るんだろうな、ぐらいにはどこかで考えていた。
うまくいえないけれど、明後日の予定が、明日に繰り上がっただけのような、そんな感じ。


ただ、その「明日」が突然やってきたので、かなりバタバタした。
正直なところ、階段飛ばしの「明日」は、やってきたのではなく、自分の不甲斐なさが招いた結果だ。
理不尽なことも確かにあった。だけど、火のないところに煙は立たないんだなと、身を持って知った。
それでも、間に合わせの徹夜準備で、何とか翌日を迎えることができた。運がよかった。
あまり褒められた人生ではないかもしれない。だけど、僕は編集という仕事を続けることができた。それだけは、本当によかった。


基本的な仕事内容は変わらない。
ただ、媒体が変わった。紙の雑誌から、WEBマガジンを担当することになった。
アナログからデジタルの世界へ。その変化は自分で望んだことだったけれど、紙とWEBでは、コンテンツの消費のされ方が大きく違った。
「お金を払って読む書籍」と「いつでも無料で読めるWEBマガジン」では、読者の求めるものも、期待のされ方も、違う。


1番に思うのは、WEBには、書籍のように、「所有するだけで、そのコンテンツを獲得したような気持ちになれる機能」がない。
受験生が、センター前に志望校の赤本を買って、机に並べて、それだけでちょっと満足できるような、そういうやつだ。
それは、コンテンツの本懐とするところではないけれど、この違いは大きいなと、今は思っている。


単純には所有欲を満たせないWEBコンテンツは、紙のコンテンツ以上に、その内容が問われる。
それぞれのユーザーが、「このコンテンツは自分にとって必要か、不要か」というものさしで、審議をかける。
閲覧数は、単純な指標にはならない。コンテンツを最後の一文まで消費せず、ブラウザバックしたユーザーも、そこに含まれるからだ。
書籍のように「売れている」という実感値がなく、また「売れている」ことに対する優位性がない以上、一人ひとりのユーザーに届くコンテンツを、コツコツと積み重ねていかなければいけない。


デジタルの世界は、全てが数字ではっきりと暴露されると思いきや、意外と見えないものもあるらしい。
ただ、紙の書籍と違い「購入する」というハードルがないが故、ユーザーになりえる人の数は桁違いに多い。
東京ドームでコンサートを何回でも開けるほどの人々に対して、大したコストもかけずにコンテンツを届けることができる。
勝負はそこからだ。それだけの、好みもそれぞれの人々を何人「振り向かせる」ことができるか。WEB編集者はきっとそこが腕の見せ所なのだ。


…と、勢いまかせに書き殴ってみたが、この理論自体、かなり不明瞭な気がする。
ただ、これは「日記」なので、書き表すことに、1つの意味がある。
WEBの世界に3か月足を突っ込んだ自分の考えを、いつかの未来の自分が読み返して、笑い飛ばせれば、このコンテンツはきっと本懐を遂げる。
だから、書き表すことから、逃げてはいけない気がしている。


僕は、気が小さい。
例えば今も、こんなことを考えている。
「もし他の編集者なら、自分と同じ環境にいたとして、3か月でもっと結果を残しているのではないか…」
「もっとセンスのある人なら、WEBの世界にも早く適応できるんじゃないか」
「そもそも、元からセンスがあったら、紙の世界を離れなくて済んだのではないか・・・」
と、こんな具合だ。
最近気づいたのだけど、僕は、仮想敵を創りだしては、勝手に戦うのが好きらしい。まるでアメリカの大統領みたいだ。もちろん、そんなにいいものでもない。


編集という仕事も、実は強くなりたいというわけではなかった。
これも運がよかったのだ。新卒の就職活動で、偶然出版社に潜り込めた。
労せずに、多くの人がなりたがっている仕事に就けたことに、得意気になっていた。
選ばれた人間になれたような、そんな気さえしていた。


ただ、1度、この仕事を続けられるかの岐路に立たされて、痛烈に思った。
僕は、この仕事に特別向いているわけでも、おそらくセンスがあるわけでもない。
だけど、僕は編集という仕事が、とても好きになっていた。
だから、もっとこの仕事を楽しめるように、努力がしたい。
見えない、どこにいるかもわからない仮想敵ではなく、目の前の困難を、1つ1つ攻略していきたい。そんな毎日を、自分自身で迎え入れたい。
こういう気持ちを表出することから、逃げないでいたい。


都合のいいことを言うなら、僕にとって日記は続けなくてもいいもの、なのかもしれない。
ただ、今日の、今のこの気持ちだけは、未来の自分に届けてやりたかった。
黒歴史は、多ければ多いほど、きっといい。
これからも思いついたときに、こうして書き殴ることにしようと決めた。


とはいえ、本当に飽き症の甲斐性なしなので、最後の1文の約束を守れるか、本当に不安だ。